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「このお店、あのストーカーさんのものなの?」  心底驚きながら尋ねたのに、料理人の彼からは、「まぁ、オーナーっすからね」とすげない返事をぶつけられただけだ。  大元の会社が別にあって、そこから派遣されている支店長、というパターンもある。そっちのほうが似合っていそうだと思ったのだけど、そういや、フランチャイズ店には見えない。お店の名前も聞いたことない。  でも、納得だ。ストーカーの彼が、しょっちゅうわたしの前に現れることができるカラクリは、カフェの経営者だからなのだ。忙しくないわけではないだろうけど、一般的な会社員よりはある程度、時間に融通が利くに違いない。 「ちょっと訊いてくるんで」  彼はそう言い残して、お店の中へと消えた。  その場に取り残されたわたしと奈保は、並んで正面出入り口を臨みながら、こそこそとお喋りを続けた。 「何を訊いてくるのかな」 「ストーカー店長が、とうとう警察に連行されたかどうかじゃないの?」  待っている間、カフェにはひっきりなしにお客さんがやってきた。  規模の大きなお店ではない上に、よほど居心地が良いらしく、中にいるお客さんがすぐに出てくる様子はない。従業員とおぼしき女性が何度か外に出てきて、申し訳なさそうに応対した。寒いからかラーメン屋さんのような行列はできないけど、それなりに人気があることはわかった。 「問題ないみたいね。て言うか、むしろ大盛況じゃない」  奈保が少しがっかりしたように言う。 「さっきの彼の反応からすると、上司の悪癖を知っていたみたいだけど」 「あ、確かに。ストーカーしているって知っても、驚かなかったもんね」  いや、でもそれは、あの飄々とした彼だからなのかもしれない。ちょっとやそっとのことでは、驚かない雰囲気がある。  奈保もそう思ったのか、苦笑いを浮かべながら言った。 「まぁでも、店にとっては、仕事さえきちんとしてくれれば、オーナーがプライベートで何しようと関係ないからね」  続けて、そういえば、と奈保が何やら不思議そうな顔を向けてきたその時、彼が戻ってきた。 「いないっすね」  わたしたちの前に立つと、無愛想に報告する。 「あ、オーナーさんがいるかどうか、確認しに行ったの?」  自分の上司が本当に犯罪者なのかどうか、確かめたかったのだろうか。
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