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「今日は午後から出勤のはずだけど、たぶん、仕入れ先に寄っているんすよ」
「事情聴取されているんじゃなく?」
彼は怒りもしないけど、笑いもしない。
「インテリアが好きで、ちょくちょく雑貨屋に入り浸るんすよね」
「仕入れって、インテリアのなんだ」
「食材の仕入れは、俺が任されているし、ほとんど早朝だから」
そうなのか、とうなずく。
「残念っすね」
「え、何が?」
「ストーカーと、そのストーキングしている相手が予想外に会ったら、何が起こるか、ちょっとおもしろそうじゃないっすか」
「えっと……そのストーカーって、あなたの上司だからね?」
知ってるっすよ、とやはり彼はにこりともせずに言った。
わたしは首を大きく動かして、ぐるりと外観を見回した。
「これ全部、ストーカーさんのセンス?」
「そっすね。好きなんすよ、あの人。外国の童話っぽい感じって言うか」
彼もお店に視線を向けてから、そのままのトーンでこちらに言ってきた。
「あんたのことも。大好きっすね」
「ぎゃふん!」
思わず口をついて出た言葉が、衝撃からなのか照れからなのか、よくわからない。
「嬉しかったんすよ、きっと」
彼は言った。
「こそこそしているのは、自信のなさの現れなんすよ」
「自信のなさ?」
「どつきたくなるくらい、ネガティブなんで。あの人」
「部下にどつきたいって言われる上司」
「だから、嬉しかったんだと思う。あんたには、認めてもらえたって」
🍴
「嬉しかったって、何のこと?」
奈保が訊いてきた。
料理人の彼とカフェの前で別れて、駅までの道を歩いて戻っている。
そうか。さっき言いかけた質問は、そのことだったらしい。
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