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私は知っている。
本当は知っているの。
アルが私を見つめる先に何を見ているのか。
ずっと見ていたから。
私は知っているの。
アルが本当は誰を好きなのか。
優しくて、暖かくて、私も大好きなその人は、、、
「セス、アル!!お茶にしましょう!」
彼女はラプラの花が好きだった。
そんな彼女の為に父はラプラの花を沢山植えたんだ。
ユラユラと揺れるラプラの花が彼女の周りをより一層彩るの。
「ママー!!これあげるー!」
アルの好きな人。
アルが忘れられない人。
アルが私の先に見ている人。
「まぁセス!ラプラの花をプレゼントしてくれるの?ありがとう!大切にするわね!」
ママは私を抱きしめる。
その後ろでアルはもじもじしながらママを見つめる。
「アル?アルも私に渡したいものがあるんじゃない?」
ママがそう声をかけて微笑むとアルは顔を真っ赤にしてゆっくりゆっくりとママに近づいていく。
「アル、見せてみて?」
ママがそう言うとアルは私がママにあげた一輪のラプラの花よりも何倍も大きいラプラの花束をママの前に出した。
ラプラの花は茎が太い。子供が素手で切るのはかなり苦労する。無理矢理引っこ抜こうとすると手を怪我する事だってある。
ラプラの花束を持っているアルの手は傷だらけだった。
それ程に
それ以上に
痛みすら忘れてしまうくらいに
アルはママに喜んで欲しかったのだ。
「まぁ!アル!ありがとう!とっても綺麗だわ!!、、でもお茶の前に一度手当てをしましょう?ね?」
ママはアルのくれた花束を持ちながらアルに目線を合わせて微笑んだ。
「、、、う、、うん!!」
私は幼いながらその時アルの見せた表情を今だに思い出す。
恋に年齢は関係ない。
アルがママを見つめる視線は間違いなく愛する者に送る視線だった。
「セスは少し待っててね!」
ママはアルと一緒に遠ざかっていく。
優しく微笑みアルに話かけるママは美しかった。
そして愛おしいと言わんばかりにママに笑顔を向けるアルのあんな表情を私に向けられた事はない。
私はその時初めて胸が痛む感覚を覚えた。
その時はまだその痛みの意味も分からなかったけれど、、。
まだ10歳にも満たない子供の頃の話。
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