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「怖いんだよ、嫌われるのが」
僕はイマジナリー柚月を心の中で、思い浮かべながら言った。心の中のイマジナリー柚月さんは、「?」を頭上に浮かべている。
恋に疎いのは空想の中でも、現実から忠実に受け継げられているらしいね。
そんな僕の言葉を、聞いてんのか、聞いてないのか。カランカランと、ジャックターを眺めて微笑む舞美氏。まあ、なんと不謹慎なこと。
僕が真剣に答えることわかってるのかな、この人。僕としては本気なんだけどね。
「人が話してると言うのに、何故舞美は酒を見つめて微笑んでんすか?」
「あぁ、悪い悪い」
僕はジト目で舞美の方を見つめるが、舞美は悪びれもせずまだ酒を見て微笑んでいる。
もはや、奇妙だぞ?そんな、ジャックターが好きなの??知らなかったのだが。
僕の奇妙に思う気持ちが伝わったのか、カラン…と手に持っていたジャックターを舞美はテーブルに置き、口角は下げないまんま口を開いた。
「いやぁ、そんなこと真面目に語る希が面白くて」
舞美さんの言ってることが、一体全体理解できなくて「はぁ?」と、声を出す。
ほんとに、『はぁ?』だぞ。何言ってんの?
「“嫌われたくない”でしょ?恋に対して、心ここに在らずみたいな対応の希がそんなこと言ってんだよ??どういう心情の変化??にやけちゃうね」
そうやって発言通りに、にやける舞美。
そんなに僕が言っていることが面白い?なあ。僕、柚月に対しては常に真剣なんだけど。それに、僕そんなに恋に無関心だった?
「初恋の人だよ?んなの嫌われたくなくて真剣になるに決まってんじゃん」
「ほぉ、希がそんなこと言うなんてな。あんた、どうやら柚月さんに相当お熱なんだね。嫌われたくないとか久々に聞いたよ。
ずっと仕方ないから付き合ってる。利害一致しているから付き合ってる。っていう雰囲気を背負ってた希が誰か一人のために、自分の損得関係なしに“Love”を原動力にして何か行動を起こすなんてなぁ」
「ウケるよ、これは」と、つらつらつらつらと僕に対してニヤニヤニヤニヤニヤけて言う舞美。何がウケるだよ。おいおい。
「これは、フラれたらどうなるのかな」
と舞美は、不謹慎なことを言う。この人、さては性格に難ありなんじゃねえのかな。
だから彼氏ができないんだよ。
「ほーんっと、舞美さんって怖いことばっか言うよな。そんなこと言うから、最悪のケースばかり想像して柚月に告白できないんでしょ!!(僕が)」
「ヘタレっつーんだよ、そういうの」と舞美。
「ヘタレなんかじゃねーから。慎重派なんだよ、僕。そう、慎重なだけ。大丈夫、ヘタレなんかじゃない」
「めっちゃ保険かけんじゃん。で?」
「『で』?」
「ほんとーのところ、希は何したいの?ただそっと内に想い秘めて見つめてたいだけ?それともーー」
舞美は真剣な顔で、僕をじぃっと見つめる。
その瞳は何もかも見通したかのような色をしている。そんな見つめられると、目が逸らせない。
「ーーその想いを伝えて柚月さんの『恋人』に、なりたいの?」
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