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舞美が放った核心を突くような、お耳に痛い言葉に、僕は言葉を紡げないでいた。
そりゃあ、なりたいよ?柚月の恋人に。この想いは確かなんですけど…ねえ?
「恋人になりたいんだったら告白すりゃあいいじゃん」
それは、舞美さんのごもっともでございます。
でも、告白してフラれるんだったらこのまんまでいいんだけど。
「じゃあ、つまり、あんたは“たまたま再会した学生時代では仲良くなかったけど今になって仲良くなれた同級生の友達”のポジでいいって言ってる訳?」
舞美は酒をグビグビと水のように飲みながら言った。…この人、どうやら酒豪らしい。いや、そんなことはよくて。
「そんな友達ポジで良いとは思ってないよ?そのポジじゃ我慢できる気がしない」
「ほぉん。じゃあ告白すりゃあいいじゃん」
「だから、怖いって言ってんじゃん」
何度したかわからない会話をまたする。
怖いって何度言えばわかるんだ、この人は。そもそも、この感情を舞美は抱いたことがあるのだろうか。ちゃんと真剣に恋してんの?って疑いたくなる。
「真剣により多くの恋してるわ、あんたよりも」そうやって言う舞美氏。
「そうですか。でも、全て失敗に終わってますけどね」
僕のツッコミに舞美は笑顔で「は?」と返してきた。笑顔でキレる人が一番怖いよね。恐ろしい。
「で、告白するの、しないの?」
舞美の言葉に、また黙り込んでしまう。だって、怖いじゃん。せっかく、神様がくれたプレゼントを無駄になんかしたくないじゃん。もし、ここで離れたらもう二度と柚月とは会えない気がして。
舞美はそんな僕を見かねて、ある案を出す。
「要するに、あんたは柚月さんの恋人になりたいわけだ」
「はい。なりたいっすよ」
「じゃあ選択肢は三つ」
そう言って舞美は三本の指を出した。
女性らしいしなやかな手だが、たぶん僕の方が指は長い。ピアニストだし、それは譲れんなぁ。
「案一、告る」
真面目に舞美さんはそう言う。先ほどの流れからして告る案はない。消去法で消していこう。
「案ニ、友達になる」
え、なに、この案。絶対これがいいんですけど。僕は激しく頭を振って頷いた。ヘドバン並みである。
「案三、諦める」
一番現実的なようで安全な案三に、何も言えなくなる。
確かに、柚月のことを考えたら諦めた方がいいかも知らない。それに、この案は僕のリスクが少ない。ローリスクローリターンである。
きっと、僕がこの選択肢を選べば、柚月は幸せになれる。
なんてったって、柚月はノンケで、かなりのイケメンである。美人を隣に連れてる未来が見えるぐらい柚月さんはカッコいい。
ここで身を引けば、きっと柚月は僕のことなんか忘れて、きっと素敵な美人の隣で幸せになってくれる。
諦めた方が、柚月としては幸せなんじゃないか…?
不意にそういう考えが頭ん中をよぎった。そのせいで、行動と思考がショートし停止する。舞美は、呆れた顔して目を細めながら、僕の言葉を待っていた。
柚月の幸せはイコールで僕の幸せにもなる。柚月が笑ってれば、自分がその隣にいなくとも極論いいのである。
「ちょっと、希。なに黙ってんのよ」
沈黙に痺れを切らした舞美が、力強い口調でそう言ってくる。「ごちゃごちゃ考えるよりも、自分の考えを優先しなさんな」と。
「諦めるのはいつでも出来るのよ?だから、ギリギリまで攻めてみなさいよ」
びしぃっとそう言い放たれた。
僕はその言葉に惑わされて、思わず自分の本心を口にする。
「…できることなら、まずは友達として始めて、恋仲に発展していきたいよ?」
それが、一番理想的な考えである。僕にとっての幸せな案。
ーーー確かに、諦めるのはいつでも出来る。友達になってから考えればいいのだ、そんな難しいことは。
「そうなのね。なら、するべきは『ひとつ』じゃない?」
ニィッと口角を吊り上げる舞美。
………え。
『ひとつ』とは??
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