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#03 音彩高等学園 吹奏楽部
「えへへ〜。まさか本物の渡辺希さんに会えるなんて、私、感激です〜」
と言って、吹奏楽部の先生は微笑んだ。それとは、非対称的に僕は、苦笑い。
「私、姫宮亜衣と言います。これから、何卒、宜しくお願いしますね」
「はい」
僕ーーーこんなに、ほわほわしてる人、見たことない。取り扱い方も知らない。ポニーテールをふわりふわりと揺らしながら、振り撒かれる優しい柔軟剤の香り。優しい雰囲気の漂う先生であった。しかも、名前まで可愛い。
「私、希さんのファンなんですよね〜!会えてとっても嬉しいです〜」
「ありがとうございます。こちらこそ、会えて嬉しいですよ」
お世辞を振り撒き、営業スマイルを貼り付ける。いつだって、第一印象が大事。お世辞を、吐け吐け。このタイプの人は取り扱い方すら、わからないけど、取り敢えず第一印象って大事でしょ? 隙あれば、お世辞。伊達に、生きてきた訳じゃあない。ピアニストだが、脳内はピアノばっかじゃないのだ。良好な人間関係の築き方も知っている!
ーーーだって…、あんなクソ親父とは違うもん。
「まあ!希さんってば、お世辞がお上手なんですね。そんなことより……」
なんと、当の本人には、見事に、お世辞と見抜かれていたーーー僕のお世辞テクニックを見抜くとは!!
しかも、“そんなこと”で、僕のお世辞は流されたようだ。どうやら、この人、ただのほわほわレディーじゃあないな。なんというか、意外と、図太い。勿論、体型ではない。そんな失礼なこと言わない。
「では、少し基本的なことを、説明させてもらいますね」
と、言われて渡されたのは、謎の資料。五,六枚である。途中には、生徒の名前らしきものもある。資料をサラッと読んだ僕を見て、姫宮先生は微笑んだ。
「では………ーーーー」
そして、僕は姫宮先生から、音彩高等学園吹奏楽部の基本的なことを、あらかた教えてもらった。
何やら、吹奏楽部員は36人いるらしい。
一年生が12人。
二年生が14人。
三年生が10人。
まあ、音彩高等学園人数が210人だから普通ぐらいだろう。別段、少なくもなく、多くもなくって感じかなぁ。わからないけど。
まだまだ吹奏楽部の部員の性格については、謎に包まれている。
36人全員と僕、仲良くなれるかなあ? 音楽ばかりやってる人間なため、良好な人間関係の築き方はわかるが、最近の流行は何一つわからない。今の子って何にウケるんだ? 高校生ってどんなテンションだっけ?
「取り敢えず、月曜日の朝に朝練があるので、そこで紹介させてもらいますね」
「よろしくお願いします、希先生!」姫宮先生は、笑顔でそう言った。
わっ、先生だって!!
先生。まさか自分が、そう言われるとはね。なんだかテンションが上がってきたなあ。
不安と期待を胸に抱きながら、僕も、姫宮先生の言葉に、笑顔で、頷いた。
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