聴こえるのは

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「とっても綺麗ですね」  僕の演奏を聞くと皆、口を合わせて「綺麗」や「美しい」と感嘆の声を漏らす。ただ一言の美しい。その一言にどれほどの意味が詰まってるかなんて、弾いてた僕は知らない。  だが、ひとつ、僕が知っていることがあるーーー僕の創る音楽、それは唯一無二のものである。 「ピアノを声のように扱う天才」  こう称されたこともあった。僕もその言葉に思わず頷いた。僕の創り出す音色は、まさしく唄声なのだ。僕のピアノ演奏は、まさしく唄なのだ。特別な動作なんてなんにもしてない。僕にはただ唄うように、弾くことしかできないのだ。唄うように演奏して、微笑むかのように体を揺らす。風の赴くままに舞い上がり、そして、自分の思いのままに飛躍する僕の唄は、誰にも真似できないものだった。  そんな僕の美しき唄声。  これをすべて君に捧げてあげる。惜しむことなんて、もう今更しないよ。僕にとって君は一番大切な人だからね。 ーーーどうか受け取って下さい。  僕の唄をただひとり、君のために。
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