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「それから…」
夏原はそこで口を結んでしまった。
「それからどうした?春名」
呼ばれた春名が「はいっ」と姿勢を正す。
「えっと、そ、それから…も、森に入って、えっと…北にむかって、飛行機の音が聞こえる方向に歩きました。そ、そして、えっと…そしたら、あの、フェンスがあって…それで、フェンス沿いに歩いていたら、下に隙間があるところがあって…そこをくぐって…」
「どこだ、そこは」
楡の声に春名は「えっと、えっと…」と小さく繰返し、夏原は首を下げて「うーん」と唸る。
「飛行機のスクラップが落ちていました。…フェンスをくぐって少し歩いたところに」
「スクラップ?」
「プロペラや、折れた翼がありました」
「つまり、スクラップのある辺りより少し南側のフェンスの下をくぐってきたということか?」
「…はい」「はい」
「なるほど。そのあたりで子どもを見たかも、という報告があったんですよ。それで見回りに行った警備員に保護されたんだね。」
「ふむ…」
と楡が腕を組んで夏原と春名を見下ろす。
2人はテーブルの上のハンバーガーの包み紙、ナゲットの入ってた箱、まだ少し残っている紙パックのジュース、空佐にもらった飛行機のステッカーと鉛筆をゆっくりと順番に眺めていた。
「戻るぞ、夏原、春名」
「「はいっ」」
2人は静かに立ち上がる。
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