白のぬくもり

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白のぬくもり

 今にも雪がちらつきそうな重たい雲が空を覆う。空気はキンと身を切るように冷たい。  みかんの入った籠を持つあかりの手は氷のようだった。 「さ、寒い……」  あかりは隣の結月(ゆづき)にぴったり身を寄せながら朱咲家の屋敷の外廊下をひたひたと歩いていた。歩きにくいだろうに結月は迷惑そうな表情を一切見せず、あかりに歩調を合わせる。 「部屋まであと少し。頑張って」 「うん……」  そこまで距離はなかったはずなのにやけに時間がかかった気がする。ようやく部屋に入ると温まった空気があかりと結月を出迎えた。 「おかえり。あかりちゃん、ゆづくん」 「おっ、みかんとお茶。ありがとな」  (すばる)秋之介(あきのすけ)は火鉢を囲みながら座っていた。あかりはそちらに近づき、みかんを傍らに置くと火鉢に手をかざした。 「い、生き返る……」  結月は持ってきた急須から湯飲みにお茶を注ぐと皆に手渡した。あかりにも湯飲みが渡される。 「はい、あかり」 「ありがとう。……あったまるー」  さっそくお茶に口をつけたあかりはほっと息を吐いた。結月は最後に自分の分のお茶を注ぐと、火鉢を囲む空いた場所に腰を下ろす。 「外はどうだった?」  みかんの皮をむきながら、昴が隣のあかりに問いかける。あかりはもう一口お茶を飲んでから答えた。 「寒かったよ。雪が降りそうだった」 「おまえ、寒いといつも雪が降るっていうよな。当てになんねぇよ」  秋之介が呆れたため息を吐くと、あかりは頬を膨らませた。 「そのくらい寒かったのー」 「はいはい」  あかりと秋之介の気安いやりとりに頬を緩ませながら、昴はみかんを一房口に放り込んだ。 「うん、甘いね」 「昴! 私にもちょうだい」 「ふふ、いいよ」  昴は筋まできれいにとったみかんを数房あかりに分け与えた。あかりは「ありがとう!」と笑顔で受け取ると、美味しそうに食べた。  みかんとお茶で一息つき、温かな空気に包まれていると、やがてあかりはうとうとし始めた。 「あかり、ここで寝たら風邪ひくよ」 「んー」  結月の忠告もろくに聞いていないようで、生返事だけが返ってくる。結月が困ったように微苦笑を浮かべると、秋之介が「しょうがねえなぁ」と呟いた。白い光が溢れた一瞬後には秋之介は人間の姿から白虎の姿へと変化していた。そしてのそりと起き上がると、あかりを囲むように座り直す。 「多少は暖がとれんだろ」 「ふかふかー。あったかーい」  あかりはふわふわと笑うと、虎姿の秋之介に包まれ、結月と昴の優しい視線に見守られながら眠りに落ちた。  まどろむあかりの意識を、柔らかな夢が受け止めた。
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