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虫のさざめきが騒がしい夜だった。「これから、どうしようか」と呟きながら、リアムは緑色の軍服に紛れた細かい枝葉をいくつか集めて、寂しげに燃える焚き火の中に投げ入れた。 「今はまだ考えられない。とりあえず、俺は親にでも会いに行くよ」と、ルイスはぶつぶつと答えた。喉の奥からなんとか絞り出したような無気力な声だったが、言葉尻にそっと添えられた微笑みが不思議と凛々しかった。静寂の中、(はかな)げな余炎をじっと見つめていると、一瞬間冷たい風が辺りを吹き惑った。木々はわさわさと葉擦(はず)れの音を立て、火は弱々しくひょろけた。 「しかし、まさかドイツで革命が起こるとはな…」と、リアムはため息混じりにこぼした。 「ああ、俺も驚いたさ。聞けば水兵の連中が反乱を起こしたのが始まりらしいじゃないか。まったく不忠なやつらだ。これだから海軍はいけないんだよ」 「ああ。やつらは傭兵のようなもんなのさ。都合が悪くなれば簡単に寝返る。やつらを駆り立てていたのは愛国心じゃないんだよ。きっと、勲章をいただくことにしか目がなかったのさ」 「ハハ、それは言えてるな…」 リアムは声の混じった溜め息を吐くと、あくびをしながら大きく身体を伸ばして、まるで毛繕(けづくろ)いを始める猫みたいに柔らかく草原に寝転がった。眼下には夜空が限りなく拡がっており、じっと見ていると星が次々に浮かび上がってくる。リアムは両手を広げ、そよめく風と、風にわななく大地のざわめきを全身で感じた。 すると、「おーい!」という声が野営地の方からした。マッテオの声である。マッテオは、リアムたちほど体格が良くない代わりに英仏独のトリリンガルだったことが買われ、別の部隊で翻訳という重役を担っていた。作戦でたまたま一緒になったとき以来、会うのは実に一年ぶりである。
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