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夜中、激しい雨の中、リアムはたった一人街路に立ち尽くしていた。空を見上げてみると、(うつむ)きがちな街灯の心もとない光が雨粒を仔細(しさい)に照らし出している。街灯を伝って腕に滴り落ちてきた水の粒が異様に冷たかった。 リアムは、何の前触れもなく走り出した。深い水たまりを躊躇なく踏みつけ、どこを見定めるわけでもなく一心不乱に足を進めた。人とも車とも、何ともすれ違わない。雨は軍服を貫いて肌にまで染み出して、その不快感がまた昂奮(こうふん)に輪をかけた。彼は、まるで弾丸のようであった。標的に行き着くまではただまっしぐらに前へ前へと進んでいき、それがアルプスの絶景だろうが、あるいは炎上する古都だろうが、周囲の景色に気を留めることなどあり得ないのである。 ハッと気がつくと、リアムは家の前に着いていた。降りしきる雨のノイズに紛れつつも、自らの荒い呼吸がまざまざと聞こえてくる。ドアの取っ手に手をかけた途端、急激に心拍が上がった。このドアを開ければ、エミリアに会えるのである。いたずら心から、出来る限り音を立てないようそっと取っ手を捻ったが、結局開けるときに戸が軋む音が鳴ってしまった。
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