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「何よそれ、自分が特別みたいに。みんな、何かしら辛いものよ」 「本当か?じゃあ、あのテーブル席の連中も?」 リアムは、奥で騒いでる低俗な連中に目配せしたが、女は振り返って確認することもなく「ええ、きっとそうだわ」と曲げない。 「ふーん、そうか。俺にはそうは思えないがね」 「ダメよ、そんな風に考えちゃ。卑屈になっても良いことはないわ」 「ああそうかい。ところで君はどうなんだ。何か経験でも?」 「ええ。あるわ。父が戦争中に病気で亡くなったの。それも、私の目の前で息を引き取った…」 女は悲惨な光景を淡々と話した。彼女の父親は、戦線に優先的に食料が配給されたせいで、充分な栄養を摂ることが出来ず持病が急激に悪化して死んでしまったらしい。リアムは戦線で補給の世話になったこともあり、聞いているうちにやるせない気持ちに駆られた。 「そうか、それは大変だったな。だがな。それでも君に俺の気持ちは分かりゃしないさ」 「…ええ、そうよ。分からないわ。ちっとも分からない。でも、それで良いの。それだから、優しくしようと思えるんじゃないかしら?人のことを分かった気になっていたら思いやりなんて生まれるはずがないもの」 彼女は、頬に片手を添えながら遠い目をして言った。さっきまで真剣味に欠けていたはずの表情に突如として舞い降りた切なさが、強烈な不安を煽った。
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