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「サラバ、諸君!」
俺はマントを翻して、相棒の自転車に跨った。相棒も『オレのおかげでもあるぞ』とでも言わんばかりの輝きを放っている。
ギィ、ギィ……チェーンが軋んでいる。相棒、今度の休みの日綺麗にしような。
「……ローマンの必殺技、ちょっとセコいよね」
「……着替える意味、ある?」
「スーツ、苦しそう」
背中越しに誰かがそう言っているけれど無視だ。ヒーローは悪者以外に声を荒げてはいけないのだ。
商店街の外れのオンボロアパートの駐輪場に相棒を停める。
「今日も、ありがとな」
相棒をそっと撫でて外階段を上がる。カンカン……と錆びた音が響き渡った。築四十年のアパート。手狭でボロボロなので引っ越したいが、なかなか難しい。
「ただいま〜」
帰宅後、ぱつんぱつんのヒーロースーツを脱いで、高校時代のジャージに着替えた。やっぱり部屋着は楽ちんだ。
あぁ、スーツクリーニング出さないと……でも結構高いんだよなぁ、クリーニング代。経費で落ちないかな、なんて考えながら冷蔵庫から缶ビールを取り出す。プルタブを開けるとシュワシュワ……と魅力的な音が鳴った。
「ぷは〜っ! うんめ〜!」
仕事終わりのビール、最高! たまらない。そうだ、冷凍餃子も解凍しよっと。……ダイエット? それは……明日から!
あぁ、餃子とビールってなんでこんなに旨いんだろう。手が止まらない。
二缶目のビールのプルタブを開けながら呟いた。
「やっぱヒーローも大変だなぁ」
常に街を巡回しているし、休みはあまりない。悲鳴が聞こえたら変身して(そしてヒーロースーツが苦しいのだ)なんとか成敗して……後子どもの夢を守るため、かっこよくなければならなくて……
でも、最後のエンディングはみんな笑顔なんだ。その時はすごく救われた想いになって、次も頑張ろうって思うんだ──
俺はヒーローだ。
《おしまい》
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