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「きゃーっ!」
絹を裂くような、女性の悲鳴が商店街に響いた。俺のヒーローセンサーがピコン、と反応する。
「ローマン助けて!」
遠くからお姉さんが(断じておばさんではない)助けを求めていたのだ。
「レンジャー!」
俺は特殊な腕時計に触れてぐるぐると腕を回す。
あぁっ、肩が痛い……四十肩ってやつ? まぁ、俺三十三歳なんだけど……なんて、悠長なことは言ってられない。
パーっと明るい光に包まれ──
「ローマン参上!」
俺はヒーローに変装した。俺は正真正銘のヒーローなのだ!
この街を守る正義の味方であるっ!
……ヒーロースーツ苦しいな。着替えたときの風圧に加え最近出っ張ってきた腹が俺を苦しめる。いい加減、ダイエット……しないとなぁ。
って、腹を見てる場合じゃない!
真っ赤なマントをはためかせ助けを求める女性のところまで行く。ちなみに空は飛べない。
悲鳴の主は親子連れで、幼い少年がじっと俺を見つめてきた。
お、俺に憧れているのか? 鼻の穴を膨らませたその時──
「ローマン、太った?」
……ギクリ。俺は身体をびくつかせる。昨晩焼き鳥、ビール、ラーメン二杯に調子に乗ってライスを二杯食べ、筋トレをしなかったのがバレてる……?
これは本当にダイエットしなければ……スーツの中を冷や汗がつたる。
子どもの夢も壊してしまう。ヒーローなるもの、中年太りは許されない。常にカッコイイお手本でなければならないのだ。
「お腹、出てる」
それを言わないでくれ──!! ぐさっと無邪気なナイフが心を突き刺す。
「そ、そそそそそれよりどうしましたか?」
「ローマン挙動不審〜」
少年、お口チャックな。女性は困ったように眉を下げた。
「あの、ひったくりで鞄を奪われて……」
なんだって!? ってかそれを先に言ってくれ!
俺は大急ぎでカバンや犯人の特徴などを聞いて、銀色の相棒である自転車に跨った。相棒の名は銀色の流星。スタイリッシュなボデイに磨き上げられた彼は十五年の付き合いだ。
ギィギィと軋む音。俺は立ち漕ぎでひったくり犯を追っていた。どういうわけか少年もついてくるが無視だ。
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