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『いまどこにいるの?』
『改札の前』
『ごめん、少し遅れる』
位置情報アプリで彼女の居場所を確認すると、すでに三十分以上はそこに滞在しているようだった。集合時間から遅れて駅に足を踏み入れると、改札の前で眉間に皺を寄せた柚希が立っているのが見える。「ごめん」僕が謝ると、「いいよ」明らかによくなさそうな低い声が返ってきた。
改札を抜けてホームに出ると、低く差し込んできた朝日に思わず目を細めてしまった。その拍子に視界が大きく広がったようになり、ふわり、意識が数センチ浮き上がる。
「君と話してたら遅刻されたことなんてどうでもよくなっちゃうから、やっぱり私は君のことが好きなんだよ」
「うん、僕も好きだと思う」
「じゃあ付き合ってよ」
「朝日が眩しいから今度にしておくよ」
きょうも僕は彼女の自殺を邪魔している。
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