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 会社から介護休業を与えられた。しかし、休業中の手当ては本来の給料の六、七割だ。毎月の生活費を考えていくと、正直苦しい。  貯金はない。親父の石材屋を閉める際に、借金返済で消えてしまった。  ローンだって残っている。一年前に家をリフォームしたばかりだ。親父が転ばないように段差を減らし、手摺を付けた。車も二年前に故障して、新しい物を買っている。  日々目減りしていく財布の中を見る度に、どうしたものかと悩まされる。  俺は、藁をも縋る思いで、市役所を訪ねた。すると、福祉事務所へ行くようにと、給付金の説明が書かれたパンフレットを手渡された。  福祉事務所に行けば、中年期の女性が受付に座っていた。 「生活保護の申請ですか?」  持っていたパンフレットを見て、開口一番に言われる。俺は「そういう訳ではないのですが」と否定した。 「ただ、生活していく為のお金が必要でして」 「そうですか。失礼ですが、おたく、今お幾つですか」 「あ、私は六十になったばかりで」 「え? でしたら、まだ働けますよね? 生活保護は、働けない方が受給するものですよ」  「困るんですよね、そういうの多くて」と、女性は言った。俺は手を振り、再度否定する。 「いえ、仕事はしてます」 「仕事をしてる? それならば、お金に困る事もないでしょ」 「今は休職中で。ただ、それだと給料が満額出なくて」 「だったら、仕事復帰したらどうですか? そもそも休職中だと、生活保護は出ませんから」  ぴしゃりと言われ、次の言葉が出ない。すると、もう用は済んだと思ったのか、女性が「次の方、どうぞ」と言った。  呆然としたまま、席を立つ。少しでも役に立つアドバイスを貰えたらと期待していた分、何も得られなかったやるせなさが大きい。  出入り口付近の壁には、「不正受給は違法です」と書かれたポスターが貼られていた。
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