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「前にも言ったけどもういっそのこと『触るな危険』とでも書いて首からぶら下げてれば?」
そうすれば誰もスズに触ろうとはしないだろうし、誰かの骨が折られることもないだろう。ついでに三津が呼び出されることもない。われながらなかなか平和的な解決法に思えた。
そのとき、スズが座ったまま体を捻ってくるりと背を見せる。浮かんでいるのは不敵な笑み。
「コレがその結果だよ」
黒のロングTシャツの背面を見た瞬間、落胆が三津の口からまろびでた。色とりどりの花のプリントと刺繍された英字。
"IF YOU TOUCH ME, GO TO HELL."
鮮やかなその赤文字が途端にドス黒い血の色に変貌した。数秒前まで浮かんでいた平和的世界は、ガラガラとお粗末な音と共に崩れて溶けて沈んでしまった。
「……killじゃないんだ」
飛び出たのはため息でも悪態でもなく、ただの疑問だった。次いで、触ったら殺すくらい言いそうだと呟けば、スズは嫌そうに顔を歪めた。
「なんでわざわざ俺が殺してやんねえといけないわけ」
ついでに舌も見せて、非常に分かりやすく不快を表した。案外とこの男は感情表現が豊かで。
「やだね。勝手に野垂れ死んでくれれば万々歳だ」
それでいて、わりと他力本願でもある。
スズは他人に触れられるのを嫌悪する。いってしまえば、極度の人間ギライ。
「せめて力加減どうにかできないの?」
「三津は呼吸加減しろって言われたらできる?」
要はそういうこと。押し黙った三津を満足そうに目を細めて見ると、スズは返事を待つことなくへらりと笑う。三津の口からは今度こそ諦めがもれでた。
極度の人間ギライ。
――少しでも触れる、あるいは触れられようとした瞬間。この男の脳は思考する間もなく、手と足が出るのが問題だった。
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