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「なーんか、」
ふと、影がさす。顔を上げれば文字どおりスズが目の前にいた。いつの間に。驚きに目を瞬いていることなんてまるっと無視した男は、縦に長い身体を屈めると、三津の顔を覗き見た。
「三津、今日ブッサイクだな?」
「……そりゃ、おまえからすればだいたい不細工に見えるだろうね」
ちらと見上げた先にある顔に、なにを当たり前のことを、と返す。
見目がべらぼうに良い。
紛れもなくそれがスズに対する第一印象だった。それをうっかり本人の前で口から滑らせたときには、『知ってる』スズはやっぱり口角を上げた。
ちらりと見えた八重歯に三津はひそかに納得した。
それくらい、同性の三津から見ても文句なしに整った造形をしていると言いきれる。嫉妬や羨望すらも浮かばない完成具合。なんなら、少し怖い。
なぜって、完璧すぎるのだ。
端的にいって頭身の比率が可笑しい。顔が小さいとかいうレベルではない。頭蓋のあまりの小ささに、本当に必要な脳みそ全部入ってるのかと慄いたのはきっかり二週間前のこと。
「いや、まあそうだけど、そうじゃなくて。何つうの? いつもより瞼が重い? なに、眠いの?」
「……そう、眠いんだよ」
しっくりくる言葉が見つからないらしい。悩むような険しい顔つきで問われて、ああそうかとようやく眠気に気づく。なるほど、どうりで。身体の重量感も気のせいじゃなかったようだ。
「誰かさんが昨日もナイスタイミングで問題起こしてくれたからね」
昨晩。正確にいえば、本日未明。さてそろそろ寝るかとベッドに潜り込んで意識が遠のきはじめたそのとき。
鳴り響いた通知音に、三津は軽く絶望した。
部屋に訪問者がきたことを知らせるそれ。天井に取り付けてある時計を見た。02:36。真昼ではなく、真夜中の02:36という数字配列は目に毒だ。
ため息さえでなかった。まどろむ思考でも分かる。なけなしのポジティブさを総動員したって、予想は覆ることはなく。
たった数秒のうちに、二度目の絶望が三津のもとへ訪れた。
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