70人が本棚に入れています
本棚に追加
やってきた王女を見たとき、悪女は何処かで見たことがあるような気がした。だが、すぐに気のせいだと思い直した。
なぜなら、その王女はとても美しく、このような美女を忘れることなどないと思ったからだ。
王女は静かに口を開いた。
「私の国をずいぶん荒らしてくれましたね」
悪女は虚をつかれた顔をした。
この王女は、突然何を言っているのか。
「まだ分かりませんか? 私はあなたですよ」
そこまで聞いて、悪女はようやく気づいた。
よくよく目を凝らしてみれば、目の前にいる女性は捨てたはずの大嫌いな自分と同じ特徴を持っていた。
くすんだ金色の髪、決して高くはない鼻に、つり上がった目。
お世辞にも美人とは言えない容姿。
ところが、これはどうしたことか。
王女はとても美しかった。
自信に満ちた目、口の端を僅かに持ち上げ、引き結ばれたかしこそうな唇。
顎を引き、真っ直ぐに前を見据える姿は、凛としていて威厳さえ感じられる。
「ああ……っ」
張り詰めていた緊張の糸が切れ、悪女は泣き崩れた。
王女は言った。
「国を返してもらいましょう」
悪女は泣きながら、何度も何度も頷いた。
その胸に渦巻く感情は、悔しさなどではなく、純然たる敗北感だった。
滅びかけた国がゆっくりと活気を取り戻していくと、国の再建に大きく貢献したひとりの女性に、人々の関心は集まった。
しかも、その女性はかつて悪女だったと言うのだから、興味を持たない者などいなかった。
元悪女は、やがて、聖女と呼ばれるようになり、すべてはもとどおりとなった。
最初のコメントを投稿しよう!