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4. 悪女 と 聖女 と 悪魔
悪女は城で慌てていた。
次から次へと文句が聞こえてきた。
文句を言う者を片っ端から牢へ放り込んだ。それでも文句はやまず、それどころか増える一方だった。
悪女は名声を取り戻すため、思いつく限りの善行を積んだ。しかしそれも焼け石に水だった。
聖女が長年かけて築き上げた評判は、一瞬で地に落ちた。どれだけ時を重ねても、回復する兆しは見えなかった。
憎み蔑んだ聖女が、いかに優秀であったかを思い知った時にはもう遅かった。
民は荒れ果てた国を見限り、未開の地へと逃れた。
城ではたらく者たちも、おべっかを使う僅かな者たちを残して、みんないなくなってしまった。
玉座にすわり、静かになった城の中で、悪女は絶望に打ちひしがれた。
すると、あのときの悪魔がやってきた。
「なんてざまだろうね」
悪魔は言った。
悪女は悪魔を睨みつけた。
「お前がしくんだのね?」
悪魔は何のことだか分からないと答えた。
「とぼけないで。お前はこうなることが分かっていたのでしょう? あのとき、人間を絶望させることが仕事だと言っていたけれど、それは聖女ではなく私のことだったのね」
悪魔は笑った。
「自惚れるな。私が絶望させてやろうと思ったのは、聖女の方だ。お前のように性根の腐った人間を貶めても何の面白みもない。だが、お前が絶望してくれたお陰で、私の労力は無駄にならなかった。感謝するぞ」
悪魔はそう言って去っていった。
すると今度は、僅かに残った家臣のひとりがやってきた。
「聖女さま。異国の王女の使いだと言う者が来ています。王女が聖女さまとの謁見を申し出ているとのこと。いかがいたしましょうか?」
悪女は力なく笑った。
「私は異国語が話せないのよ? この城に異国語を話せる者はいなくなってしまったでしょう。どうしようもないわ」
「それが……」
家臣は言い淀む。
悪女は訝しげに聞いた。
「一体どうしたというの?」
「私は来た者が王女の使者だと分かりました。そう言っていたからです」
「どういうこと?」
「使者はこの国の言葉を話していました。その使者の国というのが、この国から逃れた者たちが作った国なのです」
「なんですって!?」
悪女はこれでもかというくらいに、両目を大きく見開いた。
悪女はすぐに王女を連れてくるよう、家臣に命じた。
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