4人が本棚に入れています
本棚に追加
「ようやっと笑いよったな」
(え?え?)
突然、どこからか声がした。奏は慌てて頭を上げて足を閉じ、辺りを見回す。だが、さびれたその公園には奏以外いないのはすぐに分かった。
「なんや、お好きにって言っといてもう閉じるんかい。でもまあ、その太ももも綺麗やなぁ」
(は?え?)
奏はぎょっとしながらスズメに視線を向けた。よくよく考えると、スズメはさっきからずっと足の付け根の方に視線を向けていた。今もその太ももを凝視している。
奏はそのスズメを睨んだが、やがて小さく首を振った。
「彼の浮気現場なんかに遭遇した直後だったから、ショックで幻聴が聞こえちゃったのか。スズメさん、疑ってごめんね」
小首を傾げながらまだこちらを見ているスズメに癒された奏は、スマホの電源を入れた。もうすぐ一時になろうとしている。彼からの着信、ライン、留守電の件数が数十件もあることに現実に引き戻され、奏はすぐさま電源を落とした。
急に空腹を憶え、スズメも三食しっかり食べるのかな、などとどうでもいい事を考えながら、スマホをバッグにしまう。
「はあ、私も鳥になりたいなぁ‥‥‥」
そんな非現実的な事を口にしながら、奏はゆっくりと立ち上がった。
「そんないいもんやないって」
またさっきの幻聴だ、と思った瞬間、そのスズメは奏の肩まで飛んできた。今度は耳元で囁く。
「まあそんなに急がんでも、わしでよかったら話を聞くで」
最初のコメントを投稿しよう!