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歩いて登山道の入口であるケーブルカーの清滝駅まで移動。
それにしても幸運!
Blancちゃん、予想をはるかに上回る美形。
キュッとしまったウエスト、ふくよかな・・
「令草さん、大学で何を専攻してるの?」
「え?・・」
「絵を描いてるの!素敵!専門は何かしら?日本画?それともCG?・・・どこの大学?まさか東大?」
「ゲッ・・・」
「芸大かぁ。そっか。何年生?」
「よ・・・4年だよ。」
「うっそ~。さすがにそれは信じられない。」
「どうして?」
まさか変身の魔法がとけてないよな?
「ほら・・・その慌てぶり。本当は1年生でしょ」
「1年生? そ・・・そんな風に見える?」
「ふふふっ・・・ってか・・・本当は高校生でしょ?」
「えっ?」
「もう、かわゆいウソついちゃって・・・背伸びしたいお年頃かもしれないけど。私の目は節穴じゃないわ!」
Blancちゃん、思い込み激しいなぁ。
「大丈夫。別に年下だからって気にしなくてもいいのよ。エブリスタって年齢はわからないけど作品を読めば、心の色を感じるじゃない?令草くんが何歳でも私は動揺しないわ。ってか、むしろ尊敬しちゃう。若いのに、よくあんな作品、考えつくわね。」
令草くんときた!
これは・・・どうしたものか!
「誰にも言わないから安心して。あ、今日のお昼ご飯、ここで買って行きましょう。令草くんは何がいい?カツサンドとおにぎりでいいかしら?飲み物は・・・あ、支払いは私に任せて。ダメダメ、高校生は無駄遣いしちゃいけないわ。」
う~ん、何だか申し訳ないな。
「あの・・・荷物は僕が持ちます。飲み物とか重いですから。」
「ま・・・気が利くのね。じゃ、お願いしちゃおうかな。」
「Blancちゃんのリュック、ずいぶん重そうだけど・・・僕、持ちましょう。力はありますから。」
「まあ。嬉しいけど。令草くん、大丈夫?」
「全然。これくらい平気ッス・・・にしても何、持って来たんですか?」
「うふふ。山だから、モバイルバッテリーとモバイルルーター。お薬の救急セット。もしもに備えてヘッドライト。寒くなった時のためのライトダウンと雨に備えてウィンドブレーカー上下。汗拭き用のタオル。スケッチブックと筆記用具。おやつ。敷物。双眼鏡。日焼け止め。あ・・・あとね・・・ふふふ・・・何だと思う?」
「さあ・・・何だろう?」
「ふふっ!登りながら、ゆっくり考えて。ヒントはね。登山には何の関係もないものよ。というより・・・そんなもの・・・わざわざリュックに入れて山に登る方がどうかしてると思う。」
Blancちゃんはクスクス楽しそうに笑いながらケーブルカーに乗り込む。
初め空いていたので二人並んで入口付近の席に腰かけたけど、出発間際には混んで来た。
ドアが閉まる直前に駆け込んで乗ってきた高齢の白髪男性が、激しく息を切らして俺の目の前でフラッとした。
俺はあわてて立ち上がり彼を支え、背中をさすりながら思わず素の自分で対処していた。
「ここに座って・・・大丈夫です・・・無理に声を出さなくていいですから・・・少し落ち着いてきましたね。ゆっくり深呼吸してみましょうか・・・そうです・・・もう一度、深呼吸しましょうか・・・」
Blancちゃんは気を利かせ、リュックからタオルを出し水で適度に湿らせて俺に手渡した。
俺はそのタオルを彼の首の後ろに当てがった。
ケーブルカーはいつの間にか発車し、周囲の乗客は何事もなかったように平和な瞳で窓の外の流れゆく景色を見ている。
高齢者の一人登山は家を出た時から始まっているようなものだ、と素の自分として考える。
「ありがとうございます。あなたたちは?高尾山の救急隊員さんでしょうか?助かりました。いい歳して急に走ったものだから・・・」
白髪男性は明るい顔色を取り戻し、座席から俺を見上げて聞いた。
ハッと我に返る。イヤ、我に返っていた自分から現状の自分へとトランスする。俺は高校生にしか見えない大学生なのだ!
「フツーに山登りに来た大学生です。」
Blancちゃんが明るく答えてくれた。
すると白髪男性はジャンパーのポケットから財布を取り出しBlancちゃんに名刺を差し出した。
『東京大学名誉教授 ○○生命科学研究科 西園寺 冬彦』
「高尾山に自生する植物を研究しています。いつもは誰かしら仲間と来るんですが、今日は目覚めたら、いい天気だったので、たまには一人でのんびりするのもいいかなと出かけて来たのに。のんびりどころか駆け込み乗車して、苦しくなって、若い方に助けていただき、お恥ずかしい限りですが・・・君の対応は、本当に心強かった・・・医学生ですか?」
「あ・・・いや・・」
「彼は芸大生です。」
Blancちゃん、助け船ありがとう・・・ってか、ヤベ~!
「ほぅ!そうですか。芸大には何人かお世話になっている先生がおります。君の知っている先生も呼んで、今度いつか、みんなで楽しく食事しましょう。今日のお礼をさせて下さい。君の学科と名前を聞かせてくれるかな?」
うわあああ・・・人生最大のピンチ!
ガンバレ俺!
作家魂を発揮して、何とか無事に乗り切るんだ!
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