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私は自分は酒好きなくせに彼が飲めないと聞いて、なんだかホッとした。絶対彼は酒に酔って、自分を殴ったりしないだろうと思ったからだ。
悲しい安堵感。
お酒を飲まないのに毎日のスナック通い。
まるでいつ職場から呼び出されてもいいように、眠らないためにだけ店に通っているみたいに思えた。ただただ彼の体が心配だ。人は不死身ではない。
そんな彼に私は、
「そんなブラックな会社辞めちゃえばいいじゃないですか」
なんて酒の勢いで無神経で出しゃばったことを言ったりしたこともあった。今思えば、そういう考えはとても短絡的だし、そもそも他人の仕事に口を出すなんて、とても大それたことだったと思う。そのころの私は彼のことを何ひとつ知らなかったのだ。
──まさか彼が人知れず、日夜世界平和のために命を賭けて闘っているなんてこと、当然夢にも思わなかった。そしてそれが、彼の逃れられない運命だったとは。
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