運命の人

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 ああ夢のようなキス。  この時間が1秒でも長く続きますように。    私だけのヒーロー。  彼のキスは仄かに草原の香りがした。  そう、彼はバッタが交じっているせいか完全なる菜食主義者で、特に緑の葉物ばかりを好んで食べた。それなのに彼はどこのジムのトレーナーさえ足元にも及ばないような、素晴らしいマッチョな体をしている。かといって前の男みたいに野蛮な匂いは一切しない。野菜ばかりを食べて、一体どうやってあんな肉体を保てるのか、私には分からない。  マスターに聞いた話によると、どんな複雑な事情があったのか分からないが、もともとは彼も悪の組織に改造された、いわゆる人造人間らしい。いわゆる人造人間って何? 私には分からないことだらけだ。色々な疑問に対する答えは、とてつもなく巨大な壁の向こうにあるに違いない。  その一つ一つを紐解くには私には複雑過ぎて重過ぎる。知り過ぎることが最善とは限らない。まず私は日々の生活の中で、自然と発見に至る彼についてのアレコレを、焦らず少しづつ理解することに決めた。    そうやって私が彼との生活をほとんど闇の中で手探りしているような時、日本中を震撼とさせる事件が起こった。
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