運命の人

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 ✳  202☓年10月某日   東北の原子力発電所が悪の組織に占拠されたのだ。全身黒ずくめの多数の手下を引き連れているリーダー格は、身長3㍍はあるゴキブリのようなおぞましい姿をした怪人だった。  巨大なゴキブリ。  まるでカフカの甲虫ではないか。  立ち上がり無数の足がビラビラ動く気味の悪い腹を、カメラの真正面に見せたその醜悪な姿に、テレビの前のお年寄り数人が卒倒したとニュース速報が伝えている。ネットの世界もこの話で持ち切りでまるでお祭り騒ぎだ。 「彼らは原子力発電所で一体何をするつもりでしょうか?」  国営テレビが伝える第一報をベッドの中で聞いたタケシは、今シャワーを浴びているところだ。長いわ。いつもより出足の遅いタケシのことが不安になり、私はバスルームのドアをそっと開けた。 「あなた原子力発電所……」  と言いながら、思わずタケシのギリシャ彫刻かと見紛うような完璧に整った美しい体に、私の目は釘付けになった。これが昨夜私を荒々しく抱いた体……? ベッドの中で間近に見るのとはまた違う美しい裸体……いやだ私ったら。 「何をジロジロ見ているんだ」  シャワーを止めたタケシはタオルで頭をゴシゴシ拭きながら、惜しげもなく裸体を全面にひけらかして私の方に体を向けた。  あ!  だって見ずにはいられないじゃない。  私は、はあ……とひとつ吐息を漏らした。
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