29人が本棚に入れています
本棚に追加
インターホンを押すと、待つほどもなくドアが中から開かれる。
「パパ! おかえり!」
娘の弾んだ声に迎えられて、圭亮は一瞬緩みかけた表情を慌てて引き締めた。
「ただいま。……真理愛、ドア開けるのは誰だか確かめてから! いつも言ってるだろ?」
つい先ほど連絡も入れているし、圭亮ではない可能性はほとんどないだろう。何より両親も在宅している。
この時点に限っては、実質危険があるとは思わない。
それでもこれは習慣として、娘には身につけさせなければならないことなのだ。だから圭亮は、口うるさいのは承知の上で注意するのをやめるつもりはなかった。
「……ごめんなさい。おばあちゃんから、パパもうかえってくるって聞いたから。ピンポン鳴ってぜったいパパだと思って」
しょんぼりした真理愛が可哀想にはなるものの、親として厳しくすべき義務はあると考えている。「母親がいないから」とだけは誰にも言わせたくなかった。
無論自分の立場や恥などの問題ではなく、ただ娘のために。
それが圭亮の矜持だ。
最初のコメントを投稿しよう!