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職場を出てから、自宅に着くまで。
その間の約一時間で、圭亮は『会社員』から『父親』に変わる。
場合によっては、玄関前に立つギリギリまで仕事を引き摺っていることもなくはない。しかし、家に入った、──正確には娘の顔を見た瞬間、役割が切り替わるのだ。
自分でも驚くほど鮮やかに。
「うん、それはわかってる。パパが帰って来るの喜んでくれるのは、すごく嬉しいよ」
圭亮のフォローの言葉に真理愛は安心したように笑い、……ふと何か思いついたようにぱっと顔を輝かせた。
「あ、そうだ! パパえっと、おつ、おつかれさま、でした!」
娘がぎこちなく口にする労りの台詞。
おそらく普段母が言うのを聞き覚えて、自分でも使ってみたかったのだろう。
小学校に入学したばかりの彼女は、日々新たな知識を吸収して行く時期だ。
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