第1話 『サプライズ』

2/4
前へ
/47ページ
次へ
 そう俺は言ったことがある。 「その時は、コーヒーカップを欲しかったのよ」  母さんはこう答えた。  恐らく結婚したばかりで、お金がなかったのだろう。  母のお腹の中に俺がいたってのも、お金がないことに拍車をかけた。  だから遠慮したのだ。  母さんは敢えて安いものをねだった。  優しく聡明な母さんらしい配慮だ。  その安物が、結果的にどんなプレゼントよりもお気に入りになっているのは、どういう理屈なのか。  きっとその理由は母さんにしかわからない。  俺は父さんのことを覚えていない。  俺が三才の頃に、病気で亡くなったからだ。  それからは母さん一人で俺を育ててくれた。  三つ子の魂百までというのは、どうも嘘らしい。  なにせ、三才の頃のことなど、かけらも思えていないのだから。  父さんの写真はいくつかあった。  だが、それを何枚見てもピンとこない。  普通のお兄さんって感じだ。  どうやら俺は母親似らしい。  父親似に育っていれば違う未来になっていたのかも……。  まぁ、今更そんなこといっても仕方ない。  勘違いしないでほしいのだが、
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加