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そう俺は言ったことがある。
「その時は、コーヒーカップを欲しかったのよ」
母さんはこう答えた。
恐らく結婚したばかりで、お金がなかったのだろう。
母のお腹の中に俺がいたってのも、お金がないことに拍車をかけた。
だから遠慮したのだ。
母さんは敢えて安いものをねだった。
優しく聡明な母さんらしい配慮だ。
その安物が、結果的にどんなプレゼントよりもお気に入りになっているのは、どういう理屈なのか。
きっとその理由は母さんにしかわからない。
俺は父さんのことを覚えていない。
俺が三才の頃に、病気で亡くなったからだ。
それからは母さん一人で俺を育ててくれた。
三つ子の魂百までというのは、どうも嘘らしい。
なにせ、三才の頃のことなど、かけらも思えていないのだから。
父さんの写真はいくつかあった。
だが、それを何枚見てもピンとこない。
普通のお兄さんって感じだ。
どうやら俺は母親似らしい。
父親似に育っていれば違う未来になっていたのかも……。
まぁ、今更そんなこといっても仕方ない。
勘違いしないでほしいのだが、
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