第8話 『母の帰宅』

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「ご苦労さま。安全運転で帰るのよ?」 「はい、ありがとうございます! 失礼します!」  バタンと車のドアが閉まる音。  そして遠ざかるエンジン音。  帰ってきた。  母さんだ。  耳を澄ませる。  スリッパで歩く音。  冷蔵庫を開ける音。  ドアを開ける音。  とくに異常はない。  いつもの母さんだった。  俺は拍子抜けした。  と、同時に腹が立ってきた。  どうしてこの俺が、母さんごときに怯えなくちゃならないんだ?  体は俺のほうが比べ物にならないくらい大きいし、力だって強い。  喧嘩になれば、100%俺が勝つ。  なのに、こんなにビビるなんて、馬鹿らしい。  このまま下に行って、文句を言ってきたら、一発ぶん殴ってやろうか。  本気でそう思った。  だが、待て。  今の母さんはアルコールが入っているはず。  アルコールの力で、今朝以上に狂ってしまう可能性もある。  それに、酔っ払いは痛覚が麻痺してるから、ゾンビのように向かってくるかも。  俺はブルっと身震いした。  母さんと会うとしたら酔いが覚めた頃がいい。  つまり朝。  そうと決まれば、早めに寝るに限る。
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