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第1話 『サプライズ』
取り返しののつかないことなど何もない。
どこかの偉い人だかが、そう言った。
だが、そんなの嘘っぱちだ。
取り返しのつかないことはある。
間違いない。
実際に俺は、17才のときに、身を持ってを思い知った。
どんなに反省しても無駄だ。
どんなに償いをしようとも挽回などできない。
どんな天国に住んでいようとも関係ない。
その瞬間に、地獄へ真っ逆さまだ。
そして恐ろしいことに、その取り返しのつかないことってのは、大層なことであるとは限らないのだ。
ほんの些細なことだったりするから、たちが悪い。
たとえば、そう。
それがコーヒーカップを壊すことだったり。
∮
俺の母さん――大倉瑛子は、よくおいしそうにコーヒーを飲んでいた。
ただコーヒーを飲んでいるだけなのに、とても幸せそうに見えた。
俺は、そんな母を見るのが大好きだった。
母さんはコーヒーを飲む時に、決まって同じカップを使っていた。
父からのプレゼントだ。
最初の結婚記念日に父から貰ったもの。
それがそのコーヒーカップだった。
もっといいものを貰えばよかったのに。
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