無害な殺人鬼 ――私と彼は似て非なるもの――

2/3
前へ
/3ページ
次へ
    「ただいま……」 「おかえりなさい。今日も大変そうね」  夜遅くに戻った彼は、すっかり疲れ切った顔だ。  ジョンは騎士団随伴の魔法士として働いており、街を外敵から守る戦いの毎日。今日も森でゴブリン狩りだった。  この様子では、かなり苦戦したに違いない。  一方、私の仕事は、街の中央施設で魔法の研究。夕方には帰宅できるので、こうして食事を用意して待つ日々だった。 「思ったより手強いゴブリンでね。何人も騎士が犠牲になったよ」 「まあ!」 「最近よくあるパターンだ。乱戦の最中いつのまにか姿が消えて、死体も出てこないってやつだ」 「あなたも気をつけてね。死体が出てこないなら、本当にモンスターに殺されたとは限らないし……」 「その点は大丈夫さ。近くにいる人間は仲間ばかり。厳しい審査を経て入団した騎士たちと、魔法学院を卒業した僕たちだけだからね」  危険思想の持ち主に魔法を与えたら大変なので、私たち魔法士は全員、人格適性検査を受けている。自白魔法を組み込んだ魔道具による検査であり、同じ魔道具が騎士団のテストでも使われているらしい。  だから、味方を討つような真似をする者はいないはずだが……。 「それより、お前も気をつけろよ。最近、街の中も物騒になってきたって話だ。身元不明の遺体が頻繁に発見されるって……」 「その話なら、研究塔でも噂になってるの。素性のわからぬ者ってことは、不法流入してきた移民よね。そういう連中の存在こそ物騒だわ」  形の上では、お互いの身を案じた会話。でも腹の中では違っており、疑念があるからこそ話題にしたのだろう、と私は気づいていた。    
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加