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『どうかしました?』
「いや。ちょっと嫌な雰囲気にはなってきた」
何かを感じ取っているらしい中嶋はやや険しい顔つきで運転を続ける。一華はというと幽霊ではあるもののそういったものを感じる力は実はない。他の幽霊などを見る事はできても悪霊の気配や危険なものを察知する事ができないため、中嶋が何を感じているのか正直わからない。霊感がない人間が死ぬと霊感のないまま幽霊になるんだなあ、などと思っていた。
道なりに走り続けると古い橋が見えてくる。見下ろせば下は川で、浅そうだが川幅が広い。そして橋から川までは結構な高さがあり、川の周りは崖のようになっていてこの辺から川に下りるのは無理そうだ。
そのまま正面に大きな家が見えてきた。普通の地図には個人の家まで載っていないので、事前に依頼人に道を聞いていた。指定された道を真っ直ぐ行けば家に着くと言っていたが、まさか行き止まりの場所が目的地だったとは。家の直ぐ前が橋になっているところを見るともしかしたらこの橋はこの家の物なのかもしれない。
『わー、古そうだけど大きい家ですね。お金持ちなのも納得』
「この辺り一帯はこの家のものらしいな。地主か何かだったんだろう」
敷地内に入り適当なスペースに車を停める。大きな家といってもお屋敷と呼べるような豪邸ではない。あちこち古くどこか重苦しい雰囲気があった。こう言っては失礼だが、夜になると幽霊屋敷にでも見えそうだ。
インターホンを鳴らしても誰も出てこない。そもそも庭からも周囲からも人の気配がない。
『いないのかな?』
「今日この時間に来る事は伝えてあるんだけどな」
何度か押し続けるとようやく奥からパタパタと駆け寄る足音が聞こえてくる。玄関の戸が開き、中年の男が出てくる。
「遅くなって申し訳ありません、探偵事務所の方ですよね?」
「はい、お電話で話しました中嶋聡です。貴方が御壬清隆さんですね?」
「そうです。遠いところをお越しいただきまして。とりあえず中へどうぞ」
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