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物腰の柔らかそうな男性に案内され中嶋は中へと入る。背を向けている男性からは見えないが、家に入った途端中嶋は顔を顰めた。それを見た一華が中嶋に憑依をして問いかける。
(どうしました?)
(お香か? なんか独特のにおいがするな)
幽霊である一華には普段ニオイを嗅ぐことができない。視覚、聴覚はあるが嗅覚は何故か機能していないので、家に入った時そのニオイとやらはわからなかった。しかしこうやって肉体を借りればそれも嗅ぐことができる。中嶋の言うとおり確かにこの辺りには何か異様な臭いがした。線香とは違った、もう少し薬くささが入った煙たさ。
何のニオイだろうとは思ったが、中嶋は聞こうとはせず黙って依頼人の後に続いた。憑依している一華には中嶋の心境が伝わってくる。警戒しているのだ、この家とこの家の人間に。
(一華、俺が話聞いておくからお前は家の中見てきてくれ。行動できる範囲だけでいい)
(はーい)
通された部屋には年配の女性、おそらく依頼人の母親が座っていた。ちらりと部屋の隅を見ると立派な仏壇があり遺影には年配の男性が写っていた。この人が最初に怪奇現象騒ぎを起こしたという依頼人の父だろうか。
勧められた座布団の上に腰を下ろし、軽く挨拶を済ませる。
「こちらは母です。耳が遠いので話は耳元で大きい声でお願いします。まあやり取りは私がしますので」
「そのことですが、電話でも話したとおり佐藤は不在でして。代理で私が承りましたが、具体的にはどうするおつもりでしょうか。嫌がらせのような事をしている者を見つけ、警告か被害届などの」
「ああいえ、そういうのではないのです。おかしな事が起きているので調べていただきたいのです。何せ私どもは素人ですし」
あっはっはと軽いノリで言う御身に中嶋が小さくため息をついた。
「一応誤解されているようなので言っておきますが、テレビや映画の探偵と実際の探偵業務はまったく違います。事件解決や謎解きは専門外です」
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