ラベンダー・モーニング

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ラベンダー・モーニング

 安いホテルで夜を明かした日は、毎回どこかしら体が痛む。 けれどその痛みを愛おしく思うあたり、私も相当に毒されていると思うのだ。  爛れた関係。その言葉なら、私たちの関係は簡単に言い表せるんだろう。たまに彼が連絡をくれて、都合が合えばそのまま数週間ぶりに体の相性を確かめるだけ。だから今回も、待ち合わせをして、流れるように格安のホテルに入って、そのままなんの猶予も与えられずにキスされて。情緒も何もないこの行為に、抵抗なんて感じなかった。いつもよりも少し性急な手つきに、その髪を引っ張ることで抗議はしたけれど、でも、すぐにどうでもよくなったから別にいい。  果てて、眠って、少しした頃。街の光が起きる前に、彼はシワのないシャツを着て、腕時計を気にしている。またいつか連絡する。そんな愛の言葉を口にして、優しい笑みを浮かべた。優しくないくせにね。心の中でそう言って、頬を撫でる手に柔らかく微笑む。 ここで彼を引き留めれば、私たちの関係は変わるだろうか。「またいつかなんて、寂しいこと言わないで」とかなんとか。可愛いことを言えたら、彼は私を愛してくれるだろうか。今日を、祝ってくれただろうか。  枕元に放り出された私の携帯は、メッセージの受信を知らせている。来年のこの日を予約する言葉は、もう昨日で見飽きてしまった。高いホテルや素敵なディナーに連れて行ってくれる彼らのことは、それなりに気に入っているけれど、でも、今日は彼の隣で目覚めたかった。来年も、きっとそう。  今日も体は痛む。痛むけれど、彼がそれに気づいたことはない。 私が真夜中に起きたことも、香水を彼のシャツの襟裏につけたことも、今日一日ずっと気付かないのだろう。ネクタイを滑らせたときに香る花は、確かに私の鼻腔をくすぐったのに。  机に一万円札を置いて、彼は慌ただしげにドアノブに手をかける。 都合のいい私は、それをベッドの中から笑顔で送り出した。 「いってらっしゃい。今日もお仕事、頑張ってね」  行ってきます。彼はそう笑って、外の世界へ繰り出して行った。
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