銀行員の父親

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銀行員の父親

 銀行員の父親は、仕事が忙しいと言って、よく外泊をしていた。  最も、山道を下って里の支店で働いているために、母親も「仕方ないね」と笑って気にしないでいた。  ところがある日。  妻は、夫の背広とワイシャツをクリーニングから取ってきた時に、あることに気付いた。 「あら? なぜ、この襟が縫ってあるのかしら?」  夫はもちろん、裁縫などができるはずもない。  しかも、この時代。  修繕をしてくれる便利な店などもない。  洋服の修理修繕は、妻の手仕事なのだ。  従順で貞淑だった妻の心に、小さな疑惑と嫉妬の炎が灯った。
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