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# 6
アパートの管理人、プラド。
「怪物がこの街にいるって話は、小さい頃に聞いたよ。俺の婆さんから何回も聞かされた話だ」
会社員、ジェルテア。
「かなり上の年代のおとぎ話よね。私がまだ学生だった頃、バイト先のパブに集まった老人たちが時々話しているのを耳にしたわ。怯えるように、でもどこか不謹慎に楽しんでいるようで」
介護施設の職員、イサ。
「にふらす、だか、ふぐらふす、だか。施設の人らが時折それの名前を呟くんですけど、いまいち聞き取りづらくて。それに人によって少し呼び方が変わっているみたいですね。地方で呼び方の変わる妖精とかというのは聞いたことがありますが、この街の中だけでも呼び方があやふやなのは不思議ですね」
学生、ペリグトム。
「学校の図書館に古いノートがあって、そこに書いていたんだよ、怪物に襲われない方法。怪物に会った時は、この街に溢れる柔らかくて臭いものを食わせれば良いって。これってきっとうんこのことだよね、きったねー」
会計士、ニジャット。
「怪物は鋭く長い爪を持っているけど、それは指先ではなくて、腹の真ん中にこう、放射線状に突き出しているらしいんです。いや、小さい頃に聞いた話ですがね。それで、ぬめぬめした触手みたいな腕で犠牲者を捕らえて、その針山のようになった腹部の爪に何度も押し付けるらしいんですよ。それで犠牲者は身体中の至る所を突き刺されて、ゆっくり死んでしまうという話で。ずいぶん悪趣味な設定ですよね」
占い師、ビーマー
「怪物には夢の中で出会うと師匠から聞きました。だから、夢でこっちに来れないように網を張る必要があるのだと。そんな謂れを忘れて今の若い子達は紛い物の標を腕につけたりして。哀れな」
パートタイマー、イドラ。
「怪物でも何でもいいけど、警察が早く捕まえてくれないもんかねえ。この間の事件から警察官の巡回が増えたせいで、何だか四六時中監視されているみたいで落ち着かないよ」
少女、ピカ。
「ふぐらにす、ふぐらにす。大きな動物さん。夢の架け橋を渡って。おいで、おいで、おいで」
保険営業員、ジェバイロン。
「最近は事件のおかげで売れ行きが良いかって? そんなことはないさ、変わりない。皆、怖い怖いと言いながら自分は大丈夫だって勝手に思っているんだ。この間は街の人間が死んだってのに、だ。俺は数週間前にこの街の担当になったばかりだが、はっきり言って嫌いだね、ここの人がさ。気味が悪い」
フリーター、ハスマ。
「ドゥルマは、あ、この間亡くなった子だけど。うん、良くライブハウスに来ていた。何度か話したことがあるけど、特に目立ったところはなかったかな。そこそこに話すし、笑う普通のハイティーン。友達と一緒に来ていたこともあれば、一人で来ていたこともあった。そんくらいしか覚えてないよ。何を話したかなんて、全然」
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