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記念すべき日
俺は上機嫌だった。儲かったと言う事もあったが、今日は記念すべき日なのだ。
「ウィスキーをくれ」
馴染みのバーに行くと俺はいつものようにウィスキーを注文した。
ウィスキーが来るまでの間、鼻歌交じりでカウンターをこつこつと叩いていると、
「なにやら機嫌が良さそうですねえ」
と、声がかかった。相手は40代くらいの男で、くたびれたコートを着ていた。
「仕事が上手くいってね。それと今日は記念日なんだ」
俺は男にそういった。男は俺の隣に座る。何かを注文したようだ。
「景気が良いですね。どんな仕事をしてるんですか?」
男が俺に訪ねてきた。それに対して俺は小声でささやくように答えた。
「ここだけの話なんだが、泥棒をやっているんだ」
到着したウィスキーを飲む。相手の男は一瞬驚いた顔をして、
「それは珍しい仕事ですね。どんなところを狙うんですか」
と、話にのってきた。俺はにやりと笑って答える。
「普通の民家は狙わないぜ。悪徳な金貸しや悪い噂がたった政治家の家なんかを狙うんだ」
普段なら込み入った話はしないのだが、なにせ今日は記念すべき日だ。
「記念すべき日というのは何なんです」
「今日で盗みに入って1000回目なんだ。足跡を残さない完ぺきな仕事だ」
丁度、男の所にも注文の品が届いた。俺はグラスを持ち上げると、男に向って掲げる。
「記念すべき日に」
そういってグラスを仰いだ。酒が体に染みわたる心地よい感じがした。
すると男は酒を飲まずに懐に手を入れた。男の手には手錠が握られている。しまったと思った時には手遅れだった。
「盗みの腕は完ぺきでも、人を見る目はまだまだのようだな」
男はそういうと、俺の手首に手錠を掛ける。さらに懐から手帳を取り出した。
「残念ながら私は刑事だ。それにしても息抜きで入った店で探していた連続窃盗犯を見つけるなんてね」
刑事の男は注文した酒を一気に飲み干して続ける。
「今日は良い日だ。記念すべき日だよ」
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