砂場遊びが好きだったころ

1/1
前へ
/27ページ
次へ

砂場遊びが好きだったころ

私は子供のころ砂場遊びが好きだった。  砂場に行っては、砂でお城を作ったりトンネル堀りをする毎日。  有る日の夕方、砂場に行くと一人の大人の男性が砂場に立っていた。今日に限って私の友達はこなかった。その日に限って公園は静かで、蝉の声も遠くに聴こえる、そんな時間。  その男性は、砂場に石を置いたり砂に円を書いたりして遊んでいた。  私はその遊びに興味を持ち、近寄ろうとしたのだが、  「ぼうや。これは遊びじゃないんだ」  そういって男は私を砂場に近寄らせないように立ち塞がった。  私は興味があったが、その大人の姿があまりにも恐ろしかったので、近寄るのをやめた。  夕焼けに照らされる男は男はまるで鬼の様に赤かった。  私はその日、公園で遊ぶのをやめ、家に帰って過ごした。私は不安な気持ちで一杯になっていた。  公園で有った出来事を家族に話したが、親は二人とも私の話を何か冗談のようなものだと思ったらしく、全く相手にしてくれず、早く寝なさいと私に言った。  しかし、祖母だけが私の話をきちんと聴いてくれた。そして祖母は今まで見た事のないような厳しい顔をして言った。  「その場所にはあまり近寄らない方がいい。その男の人の事は忘れなさい」  祖母はそう言うと、私の手をぎゅっと握ってくれた。その手は力強く少し痛かったが、祖母の体温が私へと伝わるにつれ、さっきまでの不安な気持ちは晴れ、ようやく落ち着き眠りにつく事ができた。  次の日目が覚めると不安な気持ちはすっかり無くなっていた。しかし、昨日の出来事を思いだすと、ぞっと背中に張り付くような気配を感じた。私は祖母の言葉を思い出した。 「もう、あそこで遊ぶのはやめよう。今度から違う公園で遊ぶことにしよう」  私は以来、公園には近づかなかった。  聴く所によると、あの後、その公園で遊んでいた子供が事故にあったという。    私はそんな数十年前の事を思い出す。  あの後、すぐに祖母も他界し、結局、解からずじまいのままだった。  あの日と同じように蝉の音は遠く赤い夕日が辺りを照らしている。  そして、答えは今目の前にあった。  私は民俗学の研究に没頭していたが、偶然、それを見つけたのだ。  禁書と呼ばれる書物の中ほどに記載されていた。  一言で言うと、それは『呪い』の儀式に関する内容。  それを見つけた時、不安な気持ちが私をむしばんで──。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加