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むかしむかしのおかしなやつ
火の手が上がっていた。江戸の片隅。男の住む屋敷のまわりは大勢の役人たちが取り囲んでいる。
老中と御用商人の癒着を摘発したら、このありさまである。どうやら口封じが命じられたらしい。屋敷を取り囲む役人たちは今にも門を打ち破らんばかりの勢いである。
男は覚悟をしていた。今まで見聞し集めた悪事の数々。私だけが知っている不正。その証拠の全てを記し地中深くに埋めた。いくつもの場所に同じような細工をしてある。1つではない。きっと後世の人間がこれをみつけて老中の悪を暴いてくれるはずだ。それに託したのである。
火の勢いはますます強くなり、いよいよもって門が打ち壊された。ここも長くは持たない。かくなるうえは、罪人となる前に腹を切ろう。男は切腹し自害して果てた。
屋敷跡、考古学チームは発掘作業に取り組んでいた。
「本が見つかりました。当時の江戸の不正が書かれている本です。大発見ですよ」
助手が持ってきたのは1冊の本。井戸の中から出土したものらしい。一読すると学者は言った。
「またこの本か。ここに書かれているのはでたらめばかりだよ。ほかの場所でも見つかっているが、ほかのどの資料と照らし合わせても全く整合性が取れない。この屋敷の主が書いたそうだが、最後は頭がおかしくなったのか、家人を殺めた後に屋敷に火を放って自害したらしい。全く、どの時代にでもいるもんだよな。おかしな奴は」
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