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柔らかな草で覆われた地面に素足がのっている。少しも痛みを感じず、ひんやりとして心地いい。左足、右足、とおそるおそる足の運びを確かめ、歩き始めた。この世界の出口がどこかはわからないが、目の前の道はどこかにつながっているはずだ。
どうしてこんなところにいるのだろう。
周りを見回しても暗い森に樹々が立ち並んでいるだけで、葉が風にそよぐこともない。地面の花は枯れ、鳥の声も聞こえない。人の気配もない。密やかな恐怖の中で目をこらすと、外皮も盛りを過ぎた老木と、その根元に柚葉色の苔がむしているのが見えた。
時間が止まったかに見える世界に、時間の痕跡を見つけ、私の心臓が弾んだ。この世界で律動するのは私の脈だけだった。
深緑の世界にひとり浮いているのは、一糸まとわぬ素肌が白すぎるからかもしれない。少しでも隠せないかと胸を覆う長さの髪を引っぱったが、その髪も乱れていた。
そのうち少しずつ視界が明るくなった。周囲の樹々が光を帯びた色に変わり、丸い葉がさやさやと揺れる様子は、初夏の新緑の森のようだ。樹々の葉を透過した光が無防備な私を刺した。
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