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Green
私は蒼い暗闇に漂っていた。
ここがどこかはわからない。視界も思考もはっきりしない。さっきまで強い風の中にいたような気がするが、今はすっかり止んでいた。どこから来たのか、どこへ行こうとしていたのか全く覚えていない。
所在なく無数に浮かんでいた私の身体を構成する粒子が、ひとつひとつゆっくりと近づき、密度を高めはじめた。遥き時が流れた後、この世界に姿を現した身体が、大地に向かって沈んでいった。
少しずつ意識がはっきりしてくると、密集した広葉樹の深い緑が天井や壁となって光を遮り、私に迫ってきた。目をこらすと私の前と後ろに細い道が現れたが、その先に出口を示す光はない。頭上にも空は見えない。閉塞感に息苦しくなり深呼吸をすると、草木のふりまく酸素が湿り気を帯びて、独特の香りとともに私の体内に取り込まれた。
両の手のひらを見つめても、この身体がかつて私だったものなのか思い出せない。そんな時「あなた」のことが頭に浮かんだのは、「あなた」がきっと大切な人だからに違いない。
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