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疑惑
「ちょっとシャワー浴びてくるわ」
武志は素早く服を脱いで、整った体を見せつける事もなくそそくさと狭い風呂場へ。
シャワーヘッドから噴射される水の音が聞こえてくる。
冷たい水がお湯に変わるのに十秒ほど、そこから頭、顔、体と洗って出て来るまで五分。
一年間一緒に住んで確認したルーティーン。
その僅かな時間を使って真美は動く。
小さなテーブルに無造作に置かれたスマホ。
週に一度は中身をチェックするのが真美の中での愛情。
その事を武志は当然知らないし、暗証番号も教えていないので安心してシャワーを浴びている。
「私の誕生日……っと」
四桁の数字を素早く打ち込むと二人の笑顔が映る画面が開く、
「えっ……
あれ!?」
筈だったのだが、再度パスコード入寮を求められる。
「もう一回……
もう一回…… 」
三度繰り返しても開かない。
「武志の誕生日に変えたのかな? 」
開かない。
「武志の兄弟……
お母さんの……
お父さんの…… 」
知ってる限り武志の親戚の誕生日、自分の父や母の誕生日まで入力したが開く事はなかった。
「私の知らない誰かの誕生日…… 」
訝しんだところで風呂場の飛びが開く音。
慌ててスマホを元の場所へと戻す。
パジャマに着替えた武志がスポーツタオルで頭をゴシゴシと拭きながら上がって来る。
スマホを触っていた事はバレていないようだったが、
「なんかあった? 」
真美の表情から何かを汲み取り優しく尋ねる。
「ん?何でもないよ」
平静を装って答えると、
「そっか」
それ以上は尋ねてこず、
「あっ、俺明日残業で遅くなるから。
ご飯も先食べといていいよ」
この一年間受けた事のなかった報告。
訝しんだ疑問は、最悪の疑惑へと変わる。
「う、うん、分かった。
じゃあ美味しいもの一人で食べとくよ」
顔が引き攣っているのを悟られぬよう精一杯微笑む。
「じゃあ俺明日も早いから寝るわ」
心配し甲斐もなく、スタスタと寝室に入っていく武志。
胸騒ぎが収まらないまま閉まった扉を見つめ、
「おやすみ」
いつもの挨拶を呟き、真美は一つの決意を固めた。
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