変身

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家に一人、普通の犬なら暇で仕方がないのだろうが、私は元人間だ。 どんな暇潰しをしているのかというと、日がな一日テレビを見ている。 テーブルの上にあるリモコンを咥えてきて、前足でテレビをつける。  昼間はワイドショー、昼ドラを観る。夕方は娘や妻が戻るまで再放送の時代劇かニュースである。肉球でボタンを押すのは難儀するが、多少上手くなったものだ。 今日は時代劇である。 何が楽しいのかと思うかもしれないが、犬の姿でできる事など散歩とドックフードを食べる以外にないのだから、無いよりはましなのである。 ほぼ毎日だとあまり面白くはないが。 考えてみれば仕事もできなくなれば人生において良い娯楽だっだのかもしれない。娯楽とは言い方が悪いか、しかし何もないと暇である。 私はそれほど仕事が嫌いな訳ではなかった。 若い頃は失敗の多かった私も、頑張って課長にまでなった。 若い頃、納品数を1桁間違えたり、アポイントの時間を間違えて4時間早く行って取引先の人に「君、ガッツあるね」と言われて顔を真っ赤にして謝ったりしたもんだ。 自転車のブレーキ音が聴こえる。 私は慌ててテレビを消し、リモコンをテーブルに戻した。 中学生の娘、美香が帰って来た。今日は部活が無いのか。 私に歩み寄り頭を撫でてくれる。 「ただいま」 そう言ってソファーのそばにあるエレキギターを手にする。 この子は私の影響でギターを弾くのだ。 私が犬になる前はガールズバンドのカバー等をやっていたが、今は主にメタルをやっている。 中学1年生にしてデスヴォイスを会得し、金切り声で歌う自作曲を作るまでになった。 成長したなぁ。私が人間の頃はコード弾きでじゃかじゃか弾いてたのに、今では速弾きにタッピング駆使しながらデスヴォイス出せるんだから。 ちょっと親ばかかもしれないが、娘の成長は嬉しいものである。 娘がギターを弾いている姿を見ていると、若い頃の自分を思い出す。 大学生の頃はハードコアバンドを組んでいた。 ライブ中、ベーシストが突然ベースを弾くのをやめて皿回ししだしたり、蕎麦の出前とったりおにぎり食べ始めて曲にいけなくて、それにいちいちツッコミ入れなきゃならないのが大変だった。 ドラマーはMC中に私を鞭で叩いてきたし、思えばあれで目覚めたな。 今では良い思い出だ。
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