変身

9/19
前へ
/19ページ
次へ
玄関のドアを開ける音がする。 胸の奥が閉められる感覚を覚える。 妻が帰ってきた。2年間、私のために外で働いている妻が帰ってきた。 私が犬にさえならなければ、この強くて聡明で素晴らしい女性が働く事はなかった。 おかけで妻が働く会社は業績は鰻登り、無くてはならない存在になり、たった2年で管理職に登りつめた。 私の立場ってどこいったんだか、妻が優秀なのは分かっちゃいたが、私がいなくても家族は何の不自由も無く暮らしている。 何ならゴールデンレトリバーのでっかい大飯食らいの犬が居たって余裕で貯蓄ができて、株でそれなりに稼いでるし、結構高い外車なんか乗り回す家庭になっている。 私の解消なんてゴミみたいな物に感じる 確かに、家で私が仕事をしている横でに妻が来て、表計算ソフトや文書作成ソフトのショートカットキーを駆使して仕事している時に妻が「これどうやってやるの?」と聞いてきた時に教えたりはしていた。 小遣い稼ぎに始めた少額の株も、妻が気づいてどう稼いでいるのか教えていた。 妻はそれらを私の知らない所で会得し、知らないうちに株でへそくりを蓄え、私が犬になり疾走した事になっても株で食いつなぎ、就職してあれよあれよと言う間にそれなりな会社のパートから課長に登りつめた。 なんて素敵な女性なんだ。この人に惚れて良かった。 おかけで犬の私と娘二人は何の不自由も無く暮らしている。 私は人間に戻る必要あるかな? 最近ほんの少しだけ悲しい心持ちになる。 妻は私に歩み寄り、頭を撫でてくれる。 「たけひこ、良い子にしてた?」 まだ子供もおらず、仕事から帰った私に鞭を片手にかけてくれた言葉だ。 毎日聞く度に、あの頃が懐かしく感じる。 元に戻りたいな。夜、眠る前に妻が必ず「おやすみ、豚野郎」って優しく言ってくれた日常が懐かしい。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加