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新国王は「暴走する軍部をよく止めてくれた」と言葉をかけてくれた。
違う。実際に動いたのは軍師や女将軍だ。
そこに妹姫の降嫁。自分は何もしていないのだと訴えたヴィクターだが、無視された。
妹姫ステラは病弱なので公の場には出ず、離宮で過ごしていると発表されていた。
そのため心配していたものの、やってきた彼女は順応が早かった。すぐに伯爵夫人としての仕事を覚え、周りに溶け込んだのだ。
ヴィクターは彼女の隣にいると安心した。寡黙ではあるが、柔らかな雰囲気。
彼と同様に屋敷の者や領民たちもすぐにステラを慕うようになり、彼女はあっという間に皆の一員になってしまったのである。
しかし彼女が馴染むにつれ、ヴィクターは罪悪感を覚えるようになっていった。
病弱だとはいえ、若い姫である。それが褒賞だなんて物のように扱われ、田舎に来ることになってしまったのだ。
ヴィクターは、ステラに正直に話した。
軍部の暴走を止めたような勇敢な領主であるように思われているようだけれども、実際は違うこと。自分は頭を下げることしか出来なかったこと。本当は軍師たち反体制派がここを救ってくれたこと。
話を終え、幻滅するだろうと俯くヴィクターの頬を、ステラは優しく撫でた。
「……私が、望んで来たんですよ」
一言だけ告げて微笑む妻を、ヴィクターは涙目で見つめた。
きっと、こちらの気持ちを軽くするために言ってくれたのであろう。仮にそれが真実ではないにしても、その気遣いは嬉しかった。
以来、ヴィクターは彼女への後ろめたさを感じるのをやめた。
せめてステラが毎日楽しく過ごせるよう、領民のために仕事を頑張り、出来る限り彼女に愛を伝えているのだ。
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