妻を溺愛する若き伯爵、究極の選択を迫られ苦悩!

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   屋敷に帰宅し食卓へ向かったヴィクターは笑顔のステラに迎えられた。 「ヴィクター様、おかえりなさい」 「ただいま」  まぶたに唇を落とすと、彼女はわずかに頬を染めた。こんな小さな触れ合いでも初々しく反応する姿に悶えそうになる。 「今日は何をしていたの?」 「ええと、今日は夜会の招待状などを確認して、お散歩に出ました。夕方は編み物を」 「何を編んでいるの?」 「冬に向けてヴィクター様に膝掛けを」 「えーーっ!!??」  思わず立ち上がった拍子に、椅子が後ろにがたんと倒れた。その音に驚いたのか、ステラがびくりと肩を震わせる。 「えっ、うそ。俺に? いいの?」 「え、と、余計でしたか……?」 「まさか! 嬉しい! 絶対もらう! 使わないで家宝にする!! それで百年後に博物館に寄贈する!!」  何事かと料理人が顔を覗かせたが「いつもの発作か」と呆れた表情で厨房に戻った。  メイドは慣れたもので、何事もなかったかのように倒れた椅子を戻す。  ステラが自分のために編み物を。嬉しい。顔がにやけるのを抑えられない。 「ありがとう、ステラ。大好きだよ、楽しみにしてる」  その言葉に、ステラは頬を染めて俯いた。  ヴィクターからは頻繁に愛情表現をするものの、ステラからはほぼない。  しかし、彼はそれでも良いと思っていた。  ひょっとすると妻はそこまで自分のことは好きではないかもしれないが、別にそれでもいいと思うくらい、彼女のことが好きなのである。  ♢  それからヴィクターは数日かけて手紙を書き上げた。  悩みに悩んで、書き出しは『白百合の姫 ステラへ』である。  視察へ出る日の早朝、まだ眠る妻の枕元にヴィクターは手紙を置いた。  髪を撫でるとステラが薄く目を開け「行ってらっしゃい」と言ったので、ヴィクターは頷いて妻の額にキスをした。  仲睦まじい二人だが、実は政略結婚だった。  否、自分への褒賞あるいは詫びの意味合いもあったのだろうとヴィクターは思っている。
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