妻を溺愛する若き伯爵、究極の選択を迫られ苦悩!

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 予定通り視察に出たヴィクターは、領地の端で陸橋の除幕式に出席していた。  除幕式の後、近隣の工場も視察し、それから地域の有力者との懇親会。  すべてを終えた時には陽が落ちてきていたが、しかし予定よりも早く済んだ。当初の予定では宿泊し、翌日の朝に帰ろうかと思っていたのだ。 「ヴィクター様どうします? 予定通り──」 「いや! 帰ろう! 今すぐ帰ろう!」  ヴィクターは関係者に挨拶して、エリックと共にさっさと馬車に乗って屋敷を目指した。 ♢  馬車の外に見慣れた景色が戻ってきて、ヴィクターはぽつりと呟いた。 「ステラが寝るまでに間に合うといいな」 「大丈夫でしょうが……皆さん苦笑してましたよ。よほど奥様を愛しているのか、逆に尻に敷かれて束縛されているんじゃないかって」 「尻に敷かれるのいいな……」  馬車に揺られながらぼんやり妄想するヴィクターに、エリックは顔をしかめた。 「奥様はよく引きませんね」 「いいじゃないか、家庭円満というのは――おっと!」  その時、馬の嘶きと共に馬車が大きく揺れた。急な衝撃に、二人は座席にしがみつく。 「どうした!?」  エリックが外へ顔を出すと、そこに光る刀身が突き付けられた。  息をのんで固まる。 「――なんだ、今日は戻らねえと聞いていたが」 「――――っ!」  しゃがれた男の声に、馬車が襲撃されたことを知った。  強引に扉が開かれ、エリックの喉元に剣を突き付けられたまま馬車から降ろされる。  襲撃犯は一名だけ。中肉中背の男で、武装は剣のみ。近くには馬。どうやら待ち伏せされていたらしい。 「あんたがエヴァンス伯爵だな?」 「……そうだが」  男は、場の空気にそぐわぬ乾いた笑いを漏らした。 「なに、殺そうなんて思っちゃいねえよ。ちょっと時間をつぶしてもらえればそれでいい」 「……どういうことだ?」 「俺はあんたが万が一帰ってきたときの足止め係なのさ。言うこと聞いてくれりゃ何もしない」  意味が分からず沈黙する。訝しげな様子のヴィクターに、男はエリックに突き付けている剣の先をくい、と向けた。 「俺たちの狙いはあんたじゃない。分かるだろ?」 「……まさか」 「交渉をしよう。ここで俺と時間をつぶしてもらえないのなら、この先にある街に火を放つ」  そう言うと、要塞のある国境方向を指差す。  ヴィクターの視線がそちらを向いたのを見て、男はにやりと笑った。 「お姫さまか、領民か、どちらか選びな」
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