妻を溺愛する若き伯爵、究極の選択を迫られ苦悩!

6/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 絶句したヴィクターはその場に立ち尽くした。  ――ステラか、領民。  話から推測するに、男の仲間がステラを狙っているということだろう。そしてこの男はヴィクターが屋敷に戻るのを阻害しに来た。すなわち、今この瞬間、屋敷が襲われているということだ。  男は剣を持っているものの、こちらは御者とエリック、自分の三人。本気で抵抗すれば逃げ出すことは出来そうである。  しかしその代償として、街に火を放つ。  ヴィクターの頭の中を、ステラの笑顔がよぎる。  屋敷に私兵を配置してはいるが、それほど多くない。武装した集団に襲撃されたら、きっと対応できない。そうしたらステラは――。  一方、軍師から過去に言われた言葉もこだまする。  あの時「これからも領民を大切にする気持ちを忘れないでくれ」と言われた。良い統治者だとも。  彼の言葉を誇りにしてきた。軍師を裏切りたくはない。  ステラも元王族。それを理解してくれるはずである。しかし――。  苦悩するヴィクターに、男はほくそ笑む。 「ふん、考えな」  忌々しい男の声に顔を上げると、遠くにそびえる要塞が目に入った。  ヴィクターは、はっと気付いて瞠目した。  ――そういえば、あの街は。  決断したヴィクターはキッと視線を向け、エリックに目配せした。  頷いたエリックが後ろに立つ男の腹に思いきり肘を食らわせ、ひるんだところで顔面に拳を入れる。  鈍い音がして、男は剣を持ったままよろけた。そこにヴィクターが一発腹に打ち込むと、男はうずくまった。 「痛ってえ!!」 「行くぞ!」  ヴィクターはエリックと共に急いで馬車に乗り込んだ。 「出してくれ! 屋敷だ!」  御者に命じて馬車を走らせる。後ろから男の叫び声が聞こえた。 「無駄だ! どうせ間に合わねえよ!」  ヴィクターはそれを無視した。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!