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絶句したヴィクターはその場に立ち尽くした。
――ステラか、領民。
話から推測するに、男の仲間がステラを狙っているということだろう。そしてこの男はヴィクターが屋敷に戻るのを阻害しに来た。すなわち、今この瞬間、屋敷が襲われているということだ。
男は剣を持っているものの、こちらは御者とエリック、自分の三人。本気で抵抗すれば逃げ出すことは出来そうである。
しかしその代償として、街に火を放つ。
ヴィクターの頭の中を、ステラの笑顔がよぎる。
屋敷に私兵を配置してはいるが、それほど多くない。武装した集団に襲撃されたら、きっと対応できない。そうしたらステラは――。
一方、軍師から過去に言われた言葉もこだまする。
あの時「これからも領民を大切にする気持ちを忘れないでくれ」と言われた。良い統治者だとも。
彼の言葉を誇りにしてきた。軍師を裏切りたくはない。
ステラも元王族。それを理解してくれるはずである。しかし――。
苦悩するヴィクターに、男はほくそ笑む。
「ふん、考えな」
忌々しい男の声に顔を上げると、遠くにそびえる要塞が目に入った。
ヴィクターは、はっと気付いて瞠目した。
――そういえば、あの街は。
決断したヴィクターはキッと視線を向け、エリックに目配せした。
頷いたエリックが後ろに立つ男の腹に思いきり肘を食らわせ、ひるんだところで顔面に拳を入れる。
鈍い音がして、男は剣を持ったままよろけた。そこにヴィクターが一発腹に打ち込むと、男はうずくまった。
「痛ってえ!!」
「行くぞ!」
ヴィクターはエリックと共に急いで馬車に乗り込んだ。
「出してくれ! 屋敷だ!」
御者に命じて馬車を走らせる。後ろから男の叫び声が聞こえた。
「無駄だ! どうせ間に合わねえよ!」
ヴィクターはそれを無視した。
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