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屋敷まではすぐだ。
ヴィクターは馬車の手すりを握る手に、祈るように額をつけた。恐ろしさのあまり体が震える。
屋敷が見えてきて、ヴィクターは暗がりの中、目を凝らした。
中からは灯りが漏れており、しかし入口の扉は不自然に半分開いていた。
「……なにかあったんだ。君、警邏隊まで行ってきてくれ」
御者を警邏隊へやり、エリックと共にゆっくり中に入る。
家の中はめちゃくちゃだった。花瓶は割れ、床は泥で汚れた足跡。しかし、話し声などは聞こえない。異様に静かだ。
最悪の事態を想像し、呼吸が浅くなる。
ヴィクターは割れそうになる心臓の辺りを押さえながら、部屋を見て回った。
「どうなってるんだ、誰もいない」
「なにかあったはずですが……」
その時、ズズ、となにかを引きずるような音がした。
エリックと目配せし、そっと音の方へ向かう。
音のした部屋の薄く開いた扉から中を覗いた。
すると、床には腕を縛られた大柄の男が転がっていた。
さらに、近くにも人。
足元から視線で追うと、そこにはステラが立っていた。
「――ステラ!!」
振り向いたステラの鋭い視線と交わり、ヴィクターはその様子に硬直した。
ひざ丈のワンピースは肩部分が裂けており、普段巻き上げている金髪は下ろされ、乱れていた。
さらに、彼女の白い頬には血。
射るような眼差しでヴィクターを視認したステラは乱れた金髪を邪魔そうにばさりと払うと、にやりと口の端を上げた。
「――なんだ、エヴァンス卿。領民を大事にしろと言ったじゃないか」
「――――!?」
今の言葉に混乱して返せない。普段とは真逆のステラの様子。穏やかで淑やかな彼女とはまるで違い、肉食獣のようなオーラで立っている。
いやしかし、今の言葉はまるで――。
「……軍師……!?」
ステラはふっと笑みを漏らすと、ヴィクターの隣に立つエリックに目を向けた。
「屋敷の他の皆は地下に隠れている。襲撃の目的は私の拉致。犯人は三人。一人は隣。それからここ。残り一人は逃げた。死人はなし」
そう言って、足元で小さく呻く男を指差す。
エリックは頷くと、踵を返して部屋を出て行った。地下へ向かったのだろう。
ヴィクターはそっと一歩、ステラに近付いた。
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