『野宮王真』

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『野宮王真』

 青い空、白い雲、心地の良い風、そんな爽やかな朝に少年は街中のゴミ拾いをしていた。  「あら、王ちゃんおはよう」  「おはようございます、今日も暑くなりそうですね」  彼の名前は野宮王真、高校ニ年生  いきなりだが彼は“魔王の生まれ変わり”で、彼自身その事を覚えている。  「それにしても、休みの日なのにゴミ拾いなんて感心ね」  「いえ、好きでやっていることなんで」  そんな元魔王の王真が何故ボランティアでゴミ拾いしているかというと、彼は勇者に敗れ王真は仲間の大切さ、人との繋がりの大切さを知ったからだった。    そのため王真は生まれ変わってから勇者を真似て出来るだけ人の役に立てるよう生きていた。  「ご苦労様、ほら、これでも飲んでがんばってね、じゃ」  「ありがとうございます」  王真はおばさんからお茶を受け取った。  ――魔王時代なら欲しいものは全て奪って手に入れてきたんだよな。  そう苦笑して一口お茶を飲む。こうして人から感謝を込めて物をもらえるというのはとても感慨深かった。  「うっま」  夏の日差しに熱された体に染み渡る。魔王時代何気に呑んでいた最高級の血酒なんかよりよっぽど美味い。    しばらくゴミ拾いを続けていると  「――ようよう、こんなに暑い日にゴミ拾いたぁいい子じゃねーか」  「いい子なら金貸してくれるよなぁ?」  明らかな不良に絡まれてしまった。言い忘れていたが、現在の王真の外見はどこから見ても優等生タイプで腕っ節は弱そうに見えるだろう。  「い、いやそういうのやってないんで」  「やってないってなんだよ、そんな難しく考えなくていいだろただ金を貸してくれればいいんだって」  「あ、で、でも」  「ちゃんと返すからってお願いだよ」  「む、無理ですって」  王真がそういうと、一人が指の骨を鳴らして脅す。  「ごちゃごちゃうるせーんだよ、いいから金よこしやがれ!」  「ひぃぃ〜」  元魔王とは思ないような小さな悲鳴が口から漏れる。元魔王といっても今はただの人間である。一応能力(ちから)を使えなくもないが、そんな物使えば、この二人を殺してしまうかもしれない……  「ちょっと痛い目あわしてやるぜ」  男は握った拳を繰り出そうと振り上げた為王真は覚悟を決めて目を瞑る  「いてぇ!」  その言葉は王真の口からではなく目の前の男の口から発された。  目を開けてみると、男たちの背後に、クラスメイトの連中が複数いて、そのうちの一人が振り上げた男の腕を掴んでいた。  「――俺たちの親友に何かようか?」  「おい、野宮大丈夫か!?」  「――え、あ、うん大丈夫」  「お前ら痛い目に会いたくなきゃさっさとどっかいきな」  「く、くそが、いくぞ」  「ああ」  二人の男たちは複数名の男子生徒には勝てないと思ったのだろう、すぐに走り去っていった。  「――野宮、本当に大丈夫か?」  「うん、ありがとう、助かったぜ」  「そっか、それにしてもお前今日もボランティアのゴミ拾いかよ、まじで野宮って良い奴だよな」  「そ、そんな事ないって」  「そうだ!もう今日はゴミ拾いは終わりにして俺らと遊びに行こうぜ」  「えぇ!?でも」  「いいなそれ!よし、王真これ決定事項ね」  「連行しまーす」  クラスメイトは全員運動部でその屈強な肉体に敵うはずもなく、俺は二人に肩を組まれ連れていかれる。  困った時に力を貸せば、こっちが困った時に助けてくれる。  ――これこそが勇者の言っていた『絆の力』なんだろうな  そんな事を考え王真はつい笑みをこぼす。  「お、何だ野宮ニヤついてどうした?そんなに俺たちと遊べるのがうれしいのか?かわいい奴め――よっしゃ!ゴミ拾いのご褒美だ、今日は俺がワクドでハンバーガー奢ってやるよ」  「え、マジッ!?ありがとう」  ――あぁ、俺人間に生まれ変われて本当に良かった。  王真は、クスリと微笑みながら連行されて行く。
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